2008年8月4日月曜日

定刻発車

最近読んだ本に数理経済学者の三戸裕子さん「定刻発車ーー日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?」というのがあります。新潮文庫出版。

膨大な日本の鉄道のシステムを解き明かし、なぜここまで正確にならなくてはいけなかったのかという疑問に迫ります。いつも正確なのが当たり前と思っている鉄道。読むとその背景にどれほどの努力が秘められているのかを垣間見ることが出来て、びっくりしました。同時にこの勤勉さ、几帳面さが日本が驚くべき経済発展したことなどにも結びついて、日本人の性格まで考えさせられる本です。

まず、「定刻」という言葉の定義が国によって違うので、比較の仕様がないのだそうです。例えばドイツでは15分遅れが遅延と定義されている。だから14分送れて目的地についても定刻なのだそうです。ヨーロッパの国はいずれも多かれ少なかれ同じような定義だそうです。ところが日本ではなんと1分の遅れを遅延としている。フランスの鉄道が96%、日本98%正常運転といっても比較の対象が違うのでお話にならないのです。(ちなみに2003年の新幹線の遅延は0.3分だそうです。平均で33秒しか遅れていない!)

ラッシュ時の東京、中央線が2分間隔で運転している。外国ではそんな間隔で1本のレールを使うことがないので、15分遅れもすぐに回復できる。そしてどうしてそうなってしまったのかも説明されています。

定刻発車ということは何百人、いや、何千人の人たちのチームワークでなりたっている。台風などのかく乱要素が前の日から予想される場合には、人事や経理の人たちまで駆り出して対策に当たるのだそうです。彼らは「自分の仕事はお客を整理することではない」などといわず、前の日には制服を家に持ち帰り、翌日直接指定された駅に出向き、駅員を助ける。飛び込み自殺など予想されなかった事故が起こった場合にも、すぐに飛んでいく体制が整っているらしいです。

また、新幹線の列車が毎回寸部も違えずに指定の位置に止まるのでも分かるように、運転手の運転腕前も大したものです。自分の運転するラインは微に入り細に渡り記憶していて、10秒の遅れをいかにしてどこで取り返すかなど、常に考えながら運転しているそうです。日本は山あり川ありの起伏に富んだ地形で、その上駅と駅の間も短い。だから、普段でもここのカーブは時速何キロではしる、あそこの坂は何キロと言う具合に細かく決まっているのだそうです。遅れた場合(秒単位で)どこで、どうやって取り返すかは運転手の腕前となっています。

このようなチームワークは日本人の特徴だと思います。

私が50歳になったとき(スウェーデンでは大きなお祝いをします)、80人ぐらいのお客さんを集めてパーティーをしました。場所はイェーテボリのコミューンが持っている集会場。台所、ナイフやフォーク、お皿なども備え付けてあります。6-7人の日本人の友だちが手伝ってくれることになりました。何の料理を出すか、だれが作るか、当日はどうやって料理を運ぶかなどおおまかなことは決めてありましたが、皿洗い、料理の出し入れ、掃除などあまりはっきりしていませんでした。私は当日着物をきて、いらっしゃったお客様たちとチャラチャラしていたのですが、驚いたことに、日本人達はみんな、必要なことを自分で見つけてどんどんやっていくのです。台所には知らないうちに誰言うともなく役割が決まっていて、汚れた皿をどんどん集めて、洗っていく。それを拭く係りがいて戸棚に入れていく。また皿が必要になると誰かが取りに来る。大皿に盛った料理が少なくなると、脇に寄せ、ほかの料理と一緒に盛りなおす。等など。見事なチームワークでした。スウェーデン人では絶対に考えられない。

このように日本人は3人集まると、何も決めなくても、チームワークが成り立つのです。

私はイェーテボリ大学の日本語科の教師を務めていましたが、ここでも同様。昔は今のように便利なコピー機がなく、試験は自分でコピーし、1枚1枚拾ってホチキスでとめるという結構めんどうなことをしていました。だれかが自分の作った試験を綴じはじめると、時間のある仲間が黙って横に並び手伝う、等ということはごく普通でした。

しかしこういった仲間意識はある意味では外部の人(たとえばスウェーデン人)を無意識のうちに締め出してしまう可能性もあるのです。そしてその気はないのに、外国人との対立を作り出してしまう。その危険性はいつも十分心得ておく必要があると思いました。

とにかく面白い本です。

4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

いい本を紹介していただいて、ありがとう。
最後のコメント、参考になりました。鋭いです。

SoS さんのコメント...

子豚姫。
コメントありがとう。
面白い本があったらまた書きますね。

匿名 さんのコメント...

里の猫さん、こんにちは。
本当に日本の鉄道は正確で、それが当たり前のように育った私たちには、海外での大雑把な運行に驚いたりイライラしたりしますね。
でも、あまりにも時間に正確に運転することを求められて、それが運転手のストレスとなり、遅れを取り戻すためにカーブでスピードを出し過ぎて、数年前に大事故が起こりました。
行き過ぎないように正確に、というバランスは難しいですね。

日本人が集まればチームワークが生まれる。
バングラデシュではその正反対を目にしました。
ベンガル人はとかく協力ということができないようです。
他人が信用できない。自分が一番だと思っている。
椅子取りゲームのために、3人のベンガル人が椅子を並べていたのですが、1人が置いた椅子を別の人が別の場所に移動させ、また別の人が別の場所へ・・・。
ただ椅子を輪に並べるだけなのに、10分ぐらい掛かっていました…。
隣にいたスウェーデン人と、思わず目を見合わせて噴き出してしまいました。

SoS さんのコメント...

きなこさん、投稿ありがとう。
この本はあの事故の起こった翌日に発売されたそうです。タイミングを合わせたわけではないのに。
あの事故は運転手一人の不注意で起きたのではない。裏方のチームワークの微妙なずれ、利益ばかり追う経営側の傲慢さなどが集約されたものなのだろうと、この本は語っているように思います。
バングラデシュの次はジュネーブですね。あそこはフランス系スイス。個人主義が発達していると姉は言っていました。今さっき会議で決めたことを守らない。「どうして?」と聞くと「今ちょっとその気にならなかったから」という答えが返ってくるそうです。